東野圭吾さんのミステリーはやはり鉄板ですね。なんと言ってもストーリーの展開が素晴らしいです。今回やっと読み終えた『ラプラスの魔女』も、結末がわかったとき、そのストーリーの読ませ方に舌を巻きました。
※ネタバレありでの感想を書いていきます。未読の方はご注意ください。
羽原円華という少女とその母親が竜巻に襲われる展開に始まり、一風変わったボディーガードを依頼される武尾の話になり、1つ目の温泉地での事件の場面になり、大学で地球科学を研究する青江の話になり、と、序盤だけでもかなりの場面が出てきます。
読者としては当然それらの場面や話がつながらないので、正直いきなり情報を受け取り過ぎてしまってしんどい気持ちもあります。
さらのこの状況は中盤まで続き、そのなかでそれぞれのパーツが少しずつ近寄ってきます。
このパーツが本当に多いので、そのすべてがつながりを見せてくる終盤になると、その展開の激しさと面白さは尋常ではありません。実は一気読みが苦手でちまちま読む派の僕も、ページをめくる手が止まらないペースで読んでいました。
◆円華の「ラプラスの魔女」の能力
この小説の鍵は、何と言っても円華に備わっている謎の能力のこと。序盤では風の向きを読んだり天気を読んだり、そういう能力なのかな。と思い込んでいましたが、それは能力の極一部でしたね。
後に甘粕謙人も同じ能力を持っていて、その能力のことを「ラプラスの悪魔」と呼んでいることもわかります。円華は女なので「ラプラスの魔女」、これがこの本のタイトルの由来。
正確には、あらゆる物質の現在の状態やエネルギーの動きをすべて感覚として捉えられる、そんな能力でした。それゆえに、単純なものであれば人や動物の動きも予見できるということで、つまり”未来が見える”能力とも言えます。
未来予知ができる能力を描いた小説やアニメ、映画などはこれまでもたくさんあったと思いますが、なんで未来が見えるのかまで丁寧に理由づけされていたのは、僕の知る限りではこの作品が初めてでしたね。
きちんと理由づけがあることで、こんな能力が備わっていたとしたらどんな世界に見えるのかな、なんて想像もしてしまいました。
そして、この能力があれば、例えば競馬とか競艇とかで大儲けができるんじゃないの?なんて考えてしまうのは僕が歳とともに汚れてきたからでしょうか。
とにかく、円華や謙人は僕の邪念とはまったく違う能力の使い方をします。
◆甘粕才生の狂った犯罪
さて、硫化水素を使った中毒死。これがこの小説におけるひとつのテーマです。まあ、結局はすべて事故ではなく殺人だったという恐ろしいことなのですが、もっとも恐ろしいのは何と言っても甘粕才生、この男です。
自分が作った家族が、自分にふさわしい”完璧”な家族とはなり得ないと悟ったというなんとも身勝手な理由で、しかもそれを自身の美談にすべく、周到に協力者や手口を用意しての犯罪。結果、長女の自殺に家族全員が巻き込まれるというシナリオを実行します。
これにより妻と長女は死に、計画では同じく死ぬはずだった謙人だけが生き残りますが、植物状態となります。しかし、甘粕才生は、この予想外に謙人が生き残った展開も自身のイメージ美化に利用します。
狡猾ですね。それ以前に狂ってる。これがすべての事件の発端となります。
◆実は意識があった謙人
甘粕才生の犯罪の真相を最初に知ったのは、植物状態になりながらも生き残った謙人でした。しかし、後の展開でこのときの謙人には意識があったということがわかります。ただ体が動かず、言葉が発せられないので自分の意志が示せない。という設定。とても残酷な設定です。
羽原教授の手術により、奇跡的な回復を見せた謙人は、自分に異常を感じ、羽原教授に相談をします。「なんだか勘が鋭くなった感じがする」
このときこそが謙人が「ラプラスの悪魔」になった瞬間。同時に、世界に初めて「ラプラスの悪魔」が現れた瞬間となったのです。
そして身体能力も完全に復活した謙人は、父親である才生への復讐に動き出します。
◆勝ち目のなさすぎる才生
一気にクライマックスのシーンについて書きます。
最後、廃屋で謙人と再生が出会うシーンはある意味ちょっとおもしろかったです。
というのも、才生は自分に復讐してくる謙人を返り討ちにしようと企んでいたわけですが、謙人の「ラプラスの悪魔」の能力のことを一切知らないんです。
すでに周到な計画を立てて廃屋に才生を呼び出している謙人。この時点で読者には、天候の悪化か何かを利用して、才生を仕留めるのであろうという謙人の狙いに勘付いていますから、僕なんかはこう思ってしまったワケです。
いやいや、才生、あんた勝ち目なさすぎ。
だから、銃を取り出したときにはびっくりしましたね。謙人もツッコんでましたが、そこまで用意してきたのかと思いました。
しかし、それも心中前提の謙人の思惑の前に無駄に終わり、ダウンバーストという自然現象で才生はノックアウト。円華が青江のクラウンを突っ込ませて被害を小さくしていたので、才生、謙人(そして利用された千佐都も)命に別状はありませんでした。
それでも、最終的には青江も「この男に生きる意味などあるのだろうか」と考えたとおり、才生は自殺してしまうのでうすが。
◆まとめ
一連の硫化水素での中毒死が、まさかの甘粕才生という一人の人物から派生しているというところに結びつく展開がとてもおもしろかったですね。そこに絡みに絡み合うたくさんの登場人物もそれぞれにいい味を出しています。
ミステリー小説ってたくさんありますが、東野圭吾さんの作品はやはり物語が深く作られている印象ですね。本格派という感じがします。
ちなみに、この『ラプラスの魔女』は2018年に映画化されるそうです。青江役に櫻井翔、円華役に広瀬すず(めっちゃ適任だと思う!)、そして謙人役は福士蒼汰、イケメン設定ですね。公式HPがありますが、それ以上の情報はまだ書かれていません。
読んだ小説が映画化されるのはうれしいし楽しみですよね。久しぶりに時間を取って読み終えた本。とてもいい本でした。
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